「サエバ・ミチル。もう、行って良いかしら?」クロウは背筋を伸ばす。
「うん、もちろん」僕は両手を広げる。「君はいつだって、どこへだって行ける。でも……、ここへ来た目的は?」
「人間じゃない生きものを見たかった」
「ロイディは生きものじゃないよ」
「生きていないの?」目を見開いて、クロウ・スホはロイディを凝視した。「でも、話ができるし、歩いているわ」
「それは、生きていることとは別のことだよ。彼は機械なんだ。メカニズムなんだ」
「メカニズム?」
「そう……」
「ミチルは人間?」彼女はこちらを向いた。
「どう思う?」僕は尋ねた。
「人間だと思う。お話がとても面白いわ」
「ロイディ、聞いたかい?」僕は振り返った。「よく覚えておくんだよ」
「了解」ロイディが答えた。
「私、図書館へ行くわ」クロウ・スホは立ち上がった。「ありがとう。サエバ・ミチル」
「何が?」
「お話をしたこと」
「人間らしく、できた?」
「できたわ」クロウは悪戯っぽく唇を噛んだ。「あなたは人間よ」
森博嗣 『女王の百年密室』